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知る

on Sep 10 2025

【ブランドインタビュー】伝統工芸株式会社

額縁の役割と技術を受け継いだ家具づくり。
老舗額縁メーカーの視点で、主張しすぎず空間全体の質を高める家具を生み出す伝統工芸株式会社。
今回は代表取締役社長の服巻年彦さんに、お話を伺いました。

始まりは額縁から


ーーまずは、会社の歴史について教えていただけますか?

服巻さん19887月に伝統工芸株式会社が設立した当初は、額縁や屏風、衝立、茶道具など
大手メーカーの特注部門として事業を展開していました。
バブル崩壊後にどんどん需要が減少していき、このままだと・・・ということで2010年に
独立する道を選びました。
そこからは店舗什器や家具のOEM生産なども受注するようになり、
家具製造へとシフトしていきました。

ーー額縁の技術から始まった今の家具づくりなんですね。
服巻さん自身はもともとインテリアなどに関心があったのでしょうか。

服巻さん:実は私は元料理人なのですが、当時からビンテージ家具は特に好きでした。
あとは書道家である母の影響でアートも好きです。
もともとこの会社は奥さんの実家の家業ですが、入社したのもそうした趣味が影響している
部分もありますね。 

ーーなるほど。会社の事業とご自身の趣味がすごくリンクしていると感じます。
ただ料理人からこの業界では、かなり違う部分がありますよね?

服巻さん:実は、そうでもないですよ。
キャベツが木に変わり、包丁がのみ(木材などに穴を開けたり削ったりする時に使う工具)に
変わったみたいなイメージで、そんなに大きな違いは感じていません。
自分がつくったもので、他の方から対価をいただくという点でいえば同じようなことを
しているのかなと。

あえて個性を抑えた家具づくり 



ーー業界は違えど、やっていることは似ている。たしかにそうかもしれません。
そんな歴史も踏まえ、これまでさまざまな商品を生み出していらっしゃいますが商品に共通しているコンセプトがあれば教えてください。

服巻さん:家具単体で個性があるというより、どんな暮らしにも溶け込むようなものをつくりたいと思っています。
日常でふと触れたときに心地よさや使い勝手の良さを感じてもらえるような、さりげないけどかけがえのない存在となるものづくりを目指しています。

ーー主にどんなところからインスピレーションを得ていらっしゃいますか?

服巻さん:基本的にはアートや建築が好きなので、そこから得るものは多いです。
日本には独特の感性・美しさがあると思っていて、それが好きなんです。「間合い」というか。
そういうものが商品のデザインにも繋がっていますね。
私たちは長く額縁や屏風、茶道具の製造を生業としてきましたが、そうした昔ながらの文化・技術を形式的に模倣するのではなく、現代の生活スタイルに落とし込んだ商品を世の中へ提案していきたいと思っています。

ーーなるほど。デザインへのこだわりについて、もう少し教えていただけますか?

服巻さん:「余白」を意識したデザインで、日本建築や書道、茶道に通じる引き算の美を反映しています。
私たちの商品が全体的に小ぶりな商品が多いのも、そうした余白をお部屋の空間につくりたいからなんです。
現代のミニマムな暮らしにも適応していると思います。
あとはデザイナーさんやつくり手である職人さんとの対話だったり、気になる素材から着想を得たりすることもありますね。
木の節や色のばらつきを「個性」と捉え、素材そのものの美しさを活かし人工的にならないようにこだわっています。
     
       


ーー素材でいうと、新たにクリを使ったスツールをつくられたと伺いました。
どんな経緯があったのでしょうか?

服巻さん:「ガンツウ」という、瀬戸内海を周遊する宿泊可能なクルーズ船の案件をいただいたことがきっかけです。
モダンでありながら和テイストも感じられ、かつ耐久性の高い製品をご提案したところ、
特に広島県産のクリ材を使ったものに高い評価をいただきました。それがきっかけですね。
せっかくならオリジナルでも取り入れたいと考え、商品自体はもともとあったので、
ラインナップとしてクリを追加しました。

ーーほかに使ってみたい国産材はありますか?また、実際にクリを使ってみて感じたことがあれば教えてください。

服巻さん:今回はクリに挑戦しましたが、ほかにはカエデを使ってみたいです。
県産材を使ったものをその土地で売るということをやりたいです。
クリを使った感想ですが、非常に木目が綺麗で、耐久性も良いですね。つくる側としては加工もしやすいです。
ただ、これは国産材全体にいえることですが安定供給という点で懸念がありますね。
それもあって、これまで挑戦しにくい部分はありました。
クリは細い木が多く、歩留まりがあまり良くないのですが、そこはうちの商品の小ぶりなサイズ感がうまく働いてくれています。
ある程度は上手に活用していけそうだなと思っています。

ーーデザインと素材の相性がばっちりですね。
さきほどはデザインのこだわりを伺いましたが、技術面でのこだわりはなにかありますか?

服巻さん:可能な限り、釘やビスに頼らない木組みの構造を心がけています。
技法としてほぞ組み(凹状のほぞ穴を凸状のほぞに差し込んで接合する技法)や相欠き(2つの部材を同じ形に半分ずつ欠き取り、
ぴったりつなぎ合わせつなぎ合わせる技法)などを取り入れています。
これは解体もしやすく、サステナブルに繋がるというメリットがあります。
あとは面取りや角の取り方など、触れたときの質感や仕上げの美しさにもこだわっています。

 
日本の木でつくったものを、世界へ

ーー日本の伝統的な木工技術で素材のありのままの良さを活かしつつ、丁寧にものづくりをされていることがとてもよくわかりました。
そんな貴社が、今後目指す姿や展望はどうお考えですか?

服巻さん:「額縁メーカー」から「暮らしの家具ブランド」へと成長したいと思っています。
額縁製造からスタートした会社がつくる「日常の心地よさを引き立てる木製品」を通じて、暮らしそのものに関わっていけるよう、絶賛事業拡大中です。
また、日本の良いものを海外に届けたいという思いもあるので、海外へシフトしていくとことも検討していきたいです。
そのためにトレーサビリティ(製造〜廃棄までの工程を追跡できる仕組み)を推進したいと思っています。
このあたりは、海外では当たり前の取り組みですが、やはり日本は遅れていますからね。
あとは「木になる生活展」という地域でのイベントも行っているので、そうしたイベントでのワークショップなんかを通して、
職人さんから次世代へ木工技術や地場の産業が受け継がれていけば嬉しく思います。



ーーこれまで長く古き良き日本文化に触れてきた貴社ならきっと実現されると信じています!
最後に、tokonoへのメッセージをお願いします。

服巻さん:単に商品を売ろうとするだけでなく、産地やものづくりの背景に重きを置いている印象があり、
そうした部分を伝えてくれるパートナーと協力できることはありがたいです。
こちらから「こんなもの一緒につくりませんか?」と一歩踏み込んだご提案も、今後できるといいなと思っています。
お互いをリスペクトして高め合いながら、他にはない、なにか面白い取り組みができると嬉しいです。
これからを楽しみにしています。