【ブランドインタビュー】株式会社心石工芸
広島県福山市で50年以上もの間、高品質なソファを生み出している
株式会社心石工芸。
その品質の高さとテーラーメイド(既製品ではなく、注文を受けたあとにお客さまの求める通り仕立てていくものづくり)な生産スタイルを確立した裏には、多くの挑戦や努力が隠されています。
今回は、代表取締役社長である心石拓男さんにお話を伺いました。
模索から生まれた、柔軟な生産スタイル
ーーまずは会社の歴史について、教えていただけますか?
心石さん:1969年に私の父が創業し、家の隣に工場を建てました。
私も小さい頃は祖母と一緒に革を漉いたり、テープを繋いだり していましたね。
ーー小さい頃からものづくりの作業に触れられていたのですね。
そこからどのようにしてお父さまから事業を引き継がれたのでしょうか?
心石さん:もともとは家業を引き継ぐつもりはありませんでした。
私はお店をつくる仕事がしたかったので、東京で店舗内装の会社に 勤めていたんです。
ところが3年半ほど経った頃、父が会社を畳もうとしていると知り、 それを機に実家へ戻ることにしました。
父もその時50代でしたから転職も難しいですし、かといって当時の私の給料 で養うというのも現実的ではありませんでしたから。
会社の経営を立て直すために戻りました。
ーー当時のソファ業界はどんな状況だったのでしょうか?
心石さん:私が実家に戻った1996年頃は、海外から安いソファが大量に入ってきていた時代でした。
当時うちは商社経由で販売をしていたのですが、原価割れで見積もりを 出しても高いと言われてしまうほど、安いソファが出回っていたんです。
もう国内で製造していくのは無理だと思って中国に工場を移そうとしたこともありました。
ただ、資本や規模が大きすぎて、うちの規模では到底戦えないと感じ、まさに八方塞がりでしたね。
そこで、どうすれば生き残れるだろうかということを考えた時に日本に残っている製造の仕事としてテーラーが思い浮かびました。
また、たまたま受けた大学の授業で「市場は成熟化すると嗜好が細分化して ヒット商品が生まれなくなる」という言葉を聞き、
ソファはこれから成熟 市場になっていくから、テーラーのようにカスタマイズ対応して、
完全受注生産で柔軟なものづくりを拡大していけば生き残っていけるんじゃないかと考えました。
ーーかなり大きな方針転換をされたのですね。
心石さん:そうですね。
それまでうちは見込み生産でやっていたので、それを止めるとなると、納得してもらうことにすごく時間がかかりました。
在庫管理にかかっている時間を測って可視化し、受注生産に切り替えても問題がないというエビデンスを集めながら最終的には納得してもらい、
今の完全受注生産の体制を築くことができました。
そこから「インテリアショップ」という業態がどんどん伸びていき、一緒に仕事をさせてもらうようになって経営も回復していった感じです。
あと、本当に仕事がなくてどん底だったとき、近くの木工屋さんから大きな仕事を任せてもらったことにも助けられました。
会社を経営していく中で、「頑張っていれば誰かが見てくれている」ということを強く感じましたね。
素材と座り心地の追求

ーーソファ界のテーラーとして、心石工芸のものづくりにおける強みやこだわりはどんな部分にあるのでしょうか?
心石さん:革張りのソファと緻密な縫製の美しさに最も強みが表れていると思います。
うちではもちろん布も取り扱っていますが、創業して間もない頃から革に力を入れていたので、特に革の張り込みソファには自信があります。
縫製に関しては、角のラインに最も職人技が光っていると感じています。
ソファは基本的に柔らかいもので作るので角を作るのが難しく、その分技術の差がよく表れる部分だと思います。
その辺りの美しさはこだわっていますね。
工場も縫製ラインに最も人員を配置しています。

ーーなるほど。
革張りのソファがお得意とのことですが、ソファのタイプによって具体的にはどんな違いがあるのでしょうか?
心石さん:ソファには布張りと革張り、カバーリングタイプと張り込みタイプがあります。
価格の違いもありますが、メンテナンスの違いが大きいですね。
メンテナンスが難しいのは布張りの張り込みタイプのソファです。
カバーリングと違いソファをお預かりして張り替えるので、手間も費用も大変です。
逆に1番楽なのは塗装された革張りのソファですね。何かこぼしても簡単に拭き取れます。
その次に楽なのは布張りのカバーリングタイプ。
布地の「フィオラ」や表面がウレタンコーティングされている革の「KZ」は、簡単に汚れが落とせて普段使いしやすいと思います。
ただ塗装された革は、どうしても経年変化でひび割れのようなしわが目立つようになるので、そこがややこしいポイントです。
買った時が100点だとしたら、どんどん価値が下がっていってしまいます。
それだと勿体無い、ちゃんといいものを長く愛用してもらいたいという思いもあり、
革らしい経年変化を楽しめる革を使ったソファづくりには特に力を入れています。

ーーたしかに、心石工芸は格好いい革張りのソファがとても印象的です。
人間工学に基づいた設計だそうですが、そこに着目したきっかけやデザインにどう活かされているのかについて詳しく教えてください。
心石さん:人間工学を学んだのは、材料屋さんの紹介で講義を受けたことがきっかけ
です。
そこで、本来ベストな座り心地は1人1人違うのですが、ソファはいろんな体格の方が使うため、
誰かに合わせるというよりも人によって色んな座り方に調整できることが重要だという結論に至りました。
また、座るという行為自体、実は体に負担をかける行為なんです。
下半身を楽にしつつ上半身にも負荷をかけないためには、やはりさまざまな体勢で座ることができる工夫が必要だと思いました。
クッションで座り心地を調整できるようにし、背もたれは低めで脇の下に入るような高さにするなど、多様な楽しみ方ができるようにデザイン・設計へ反映しています。
あとはやはり長く使ってもらえるように、スタンダードな形からはあまり外れないようなデザインにしています。
ソファは買い替えの頻度が比較的少ない家具なので、10年先でも使うことができるかという点が、デザインの基準のひとつになっていますね。

本場と戦えるソファメーカーを目指して
ーー座り心地とデザイン、お客様のニーズに応える柔軟な提案力。
どれを取っても高いレベルで実現を目指されていることがよく分かりました。
そんな心石工芸が目指す今後の姿はどうお考えですか?
心石さん:シンプルに、今よりもっと良いソファをつくっていきたいです。
座り心地の良いソファをつくることは、長くソファを作っていてもすごく難しいんです。
そういった設計ノウハウというものは教科書もありませんし、私はこれまで300モデル以上設計してきましたが、今でもなかなか思い通りにいかないことも多いです。
そういった点で、やはりヨーロッパのソファは最高峰ですね。
うちも社員の誰かしらが年に1回は海外へ行って視察をしています。
ヨーロッパは革の品質だけでなく技術やデザインも水準が非常に高いのですが、そんなヨーロッパと戦える品質の高いソファを日本でつくりたいです。
ーー最後に、tokonoへのメッセージをお願いします!
心石さん:国産材の魅力を発信するというコンセプトは、非常に良いと思います。
ただ、商品を買ってくれる方の課題解決やメリットにどう繋がるか?という点を見出すことはとても重要だと感じています。
お客様にとっての価値をきちんと考えたうえで、家具をつくる人、家具を使う人の距離が縮まるサイトにぜひなってほしいですね。
そんなサイトは、なかなか他にないと思います。
今後オリジナルのソファを一緒に開発できることも楽しみにしています。