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知る

on Sep 25 2025

【ブランドインタビュー】nisi-bi

「十津川の木とともに生きる家具づくり」

奈良県の最南端、日本一の広さを誇る山村、十津川村。
緑濃い山々と清流に囲まれたこの地で、地元の木を活かした家具をつくるブランドがあるのをご存じでしょうか。

その名は nisi-bi(ニシビ)
代表を務めるのは、中山直規さん。東京から十津川へ移り住み、木工の世界へ飛び込んだ異色の経歴を持つ家具職人です。
今回は中山さんに、ブランド誕生までの歩みと、家具づくりに込める想いを伺いました。

 


十津川村への移住

ーー十津川村で家具をつくることになったきっかけを教えていただけますか?

中山さん:埼玉県で生まれ、専門学校で写真を学びました。
卒業後は広告代理店で写真の加工やイベント関連の仕事に携わりながら、東京で働いていました。
転機となったのは2015年で、私が32歳のときです。広告代理店の仕事で全国を飛び回るなかで、地方の面白さに気が付きました。その土地ごとの風土があり、「東京以外の場所にも暮らしてみたい」と思うようになりました。
ちょうどその頃、偶然目にしたのが 十津川村での家具づくりの人材募集です。
当時、十津川村では林業の「6次産業化」プロジェクトが進められていました。
豊富にある地元の木材を切り出すだけでなく、製材し、家具や建材として使うことで地域の価値を高める取り組みです。その一環として、家具職人の弟子を募集していました。
その募集に応募し、東京から十津川村へ移住してきました。

ーー十津川村は山深い場所ですが、移住について不安はなかったのでしょうか?

中山さん:不安はありませんでした。思っていたよりも山奥で驚きましたが・・・。
ただ、中途半端よりも振り切っていて面白いかなとも思いました。
十津川村には野生動物もたくさんいて、特に鹿が多く、たまに自動車と鹿の衝突事故の話も耳にします。
雪は思ったよりも多くはないですが、スタッドレスタイヤを装着していないと危険ですね。
日々の買い物も、車で1時間くらいのところへ出掛けて、まとめ買いする人が多いと思います。
慣れればそこまで気になりません。住めば都で、自然が豊かなとても良いところだと思います。

 

nisi-biの誕生
 


ーー32歳で十津川村へ移住し、『nisi-bi』を立ち上げた経緯を教えていただけますか?

中山さん:十津川村へ移住してからは、役場の臨時職員という形で3年間、地元の職人のもとで国産材を使った家具づくりを学ばせていただきました。
その後2017年に十津川村の林業6次産業化の一環で家具ブランド「KIRIDAS」の立ち上げに携わることとなり、2022年にnisi-biとして活動を始めました。
nisi-biとして、各地で開催される展示会への出展も行っています。展示会ではヒノキやスギといった日本の木を使った家具は、海外の方から興味を持っていただけることが多かったです。
いつか海外に向けた家具づくりもやってみたいという気持ちもあります。

nisi-biの家具

ーーnisi-biの家具づくりで大切にしていることは何ですか?

中山さん:nisi-biの立ち上げ当初から大切にしているのは、「自分が使いたい、欲しいと思える家具をつくる」ということです。
流行を追うのではなく、暮らしに寄り添い長く使い続けられるもの、自分が普段使いしたいと思えるシンプルなデザインを意識しています。

ーー家具作りにおけるデザインや設計は修行期間に学んだのでしょうか?

中山さん:教えていただいたのですが、独立して自分で作った家具については、作りながら模索していきました。本を読んだり、有名な家具を見たりしながら学びましたね。
北欧の家具も好きなのでそういったものをたくさん見たり、自分の手を動かしたりしてつくっていくなかで、デザインや強度について勘所を掴んできました。
例えば「Brace」というシリーズの家具は、偶然通りかかった作業場で目にした古い作業台にインスピレーションを受けてデザインしました。
Brace(ブレース)とは建築で柱と柱の間に斜めに入れる補強のことで、日本では筋交い(すじかい)と呼ばれています。
強度を保ちながら、アシンメトリーな美しさを持たせることができたと思います。

ーー特に手の掛かる家具はありますか?

中山さん:家具の中でも特に時間をかけるのは椅子ですね。デザイン性と座り心地の両立が欠かせません。
背もたれの角度、座面の高さ、
部材の太さ5mm違うだけで全く印象が変わります。
試作を繰り返し、納得がいくまで調整を重ねます。
新しい家具のデザインを作る
ときには、半年から1年など、長い時間がかかることもあります。





ーー特注の対応もされていますか?

中山さん:もちろんです。ご希望があれば、特注家具の製作もお受けしています。特注で作る家具は、ダイニングテーブルなどのテーブル類が多いですね。
流れとしては、まずご要望をお伺いし、概算の見積をします。スケッチや図面の作成をおこない、何度かのやりとりを経て完成します。
大体3ヵ月くらいかかることが多いです。

 

ヒノキという木材

 

ーー家具にはヒノキを多く使っておられますが、特徴など詳しく教えていただけますか?

中山さん:nisi-biの家具に多く用いられているのは、地元・奈良県産を中心としたヒノキです。ヒノキはとても軽く、椅子やテーブルの移動が楽にできます。特に女性や高齢の方にとっては日々の負担が少なく、使いやすさが大きな魅力です。
毎日使う家具だからこそ、軽さは暮らしの快適さに繋がります。
また、明るく柔らかで素朴な色合いも魅力です。軽くて柔らかい木なので、見た目にもそれが表れています。経年変化で色がどんどん飴色に深まっていく様子は、使うほどに愛着を増していきます。
ただ一方で、軽さ、柔らかさゆえのデメリットもあります。
強度が出にくいので、設計段階で工夫が必要です。接合部分を広めにしたり、部材の太さを調整したり。
ほんの数ミリ違うだけで印象や耐久性が変わるので、
細やかな調整を大切にしています。

ーーヒノキの家具のメンテナンスで気を付けることはありますか?

中山さん:特にヒノキだからといって、他の木と比べて特別気を付けることはないですよ。 塗装によるメンテナンスの違いはあるかもしれませんね。
たとえば、オイル塗装は定期的にオイルを塗り直すことが推奨されます。
nisi-biではオイル塗装の他に、液体ガラス塗料を使った仕上げを行っている家具があります。
液体ガラス塗料で仕上げた家具は、無垢材の質感を活かしながら汚れに
強く、経年変化で味わいが増していきます。液体ガラス塗料にも色々あり、光沢が出るものもありますが、なるべく無垢材の質感を活かすものを使っています。
メンテナンスフリーなため、気軽に安心して
使っていただけます。

ーー他にも、日本の木を使って家具づくりをしていますか?

中山さん:現在はヒノキを中心に家具づくりをしていますが、新たにサクラを使った家具づくりにも挑戦しています。サクラは色が美しく、日本人にとっても馴染み深いです。
加工もしやすく、家具材としても優れていると思います。ヒノキ以外の他の木でも、国産の木を使って家具づくりをしていきたいという気持ちがあります。

 

これからのnisi-bi

 

ーー今後の展望について教えていただけますか?

中山さん:まずは、商品ラインナップをもう少し増やしたいと思っています。具体的にはソファを作りたいですね。
また、海外向けの販売にも挑戦したいと思っています。展示会ではアジア圏のお客様から良い反応をいただきました。高いハードルはありますが、日本の木や日本の職人の手仕事を、海外に伝えていけたら嬉しいです。

ーー最後に、tokonoへのメッセージをお願いします。

中山さん:率直に、国産材を使った家具づくりをしている者として、共感を覚えました。同じようなブランドは少ないと思うので、どういった人が注目してくれるのかというところにも興味があります。
日本の家具市場では、海外産の木材や海外生産の製品が多いのが現状です。
もちろんそれでも良い商品はたくさんあり素晴らしいのですが、日本の木、日本の土地で育った素材を使った家具の魅力をもっと知ってもらえたら嬉しいですし、そうしたところに期待しています。

 

 

まとめ

中山さんのお話を通じて強く感じたのは、『細部へのこだわり』でした。

たった5mm違うだけで見た目の印象も強度も変わってくる家具の世界。都会から山奥へ移住し、ゼロから技術を学び、今は一人の家具職人として歩みを進めておられる中山さん。木と家具に向き合い続ける中山さんが作る家具を見ていると、細部へのこだわりを強く感じます。そうした一見伝わりにくい細部へのこだわりが、使い心地や満足感に繋がっているのだと思います。

中山さんの言葉の背景には、「地元で育った木を生かし、長く愛される家具をつくりたい」という真っ直ぐな思いを感じました。nisi-biの家具は、素材の魅力を最大限に引き出しながら、私たちの暮らしに静かに寄り添ってくれます。十津川の自然の中で生まれた家具を、ぜひ手に取って感じてみてください。