01/04

知る

on Oct 02 2025

【ブランドインタビュー】塚本木工所

"長く使ってもらえるもの"を届けたい——。」

そんな思いを胸に、テーブルやチェアなど「脚」と呼ばれる家具製作を得意とし、

広島県福山市から全国に家具を届けている塚本木工所。

今回は専務である塚本達郎さんに、お話を伺いました。

  

産業の町・福山で続ける家具づくり

 

ーーまずは改めて、会社の歴史について教えていただけますか?

塚本さん:もともとは私の祖父が1946年に始めた会社で、昔は学校の机や椅子なんかを作っていました。
ただ学校の家具もスチール製に切り替わって仕事が減っていき、塚本木工所も現社長である父の代で家庭用家具の製造・販売へシフトチェンジしました。
現在はOEM製造や自社販売が事業のメインになっています。

ーー現社長さまの代で事業方針が変わったのですね。家具製造はまだまだOEMが割合として多いのでしょうか?

塚本さん:ほとんどがOEM製造ですね。もっと自社販売に注力していきたいとは思っています。
父が事業方針を変えたころ、大手家具メーカーさんとの取引が始まり、ありがたいことに自社で販路を築く必要がないほど仕事に恵まれていた時期がありました。
それもあって自社の販売よりも「つくること」に専念していましたね。
ただ、みなさんどんどん自社生産への道を開拓されて、なんだかんだ今そんなに忙しくない時期に差し掛かっています。
そこで、改めて「自社販売もう1回やってみるか」と。時代は回るものだなと感じます。

ーー長い歴史の中で、まさに転換期を迎えているところなのですね。これまでずっと福山でものづくりされてきたのですか?

 塚本さん:そうですね、ずっと福山です。
家の横に工場があって、形を変えながら増えたり、ショールームもできたりして今の形になりました。

  

ーー福山、すごくいいところですよね。
広島でも府中は婚礼箪笥の産地というイメージがありますが、福山はどんなところですか?

 塚本さん:福山自体は、「産業の町」ですね。
たとえばデニムも岡山のイメージが強いと思いますが、実はほぼ福山で生産されているんですよ。ブランディングができていなかっただけで。
大手の鉄鋼メーカーもあって、ものづくりの基盤がしっかりしている地域だと思います。

ーー塚本さん自身もずっと家具やものづくりに関心があったのですか?会社を引き継ぐことも昔から考えていらっしゃったのでしょうか。

 塚本さん:会社を継ぐという考えは、ぼんやりとありましたね。
実は料理やお菓子作りも趣味だったりするので、そっちをやってみたいなというのも思ったことはありましたが・・・。
仕事も趣味も「できるまで諦めなければできないにカウントされない」といったヒントを得ることに繋がっています。

ーーお料理!家具と同じで「つくる」ことがお好きなのが伝わります。ものづくりのお勉強はどこかでされていたのでしょうか。

塚本さん:専門学校で建築を学びました。
塚本木工所へ入る前の3年間は、名古屋のインテリアショップで接客と販売の勉強をさせていただきました。
その経験を経て、134年ほど前にこちらに戻ってきましたね。

ーー名古屋でのご経験はいかがでしたか?

塚本さん:お客さまへの接客など、「売る」ということがどういうことか色々見せてもらいました。
さまざまな業務を経験して感じたのは、やはり「販売」はとても難しい仕事だということですね。
お家を1軒売るにしても、どんな家具をどう置けば暮らしやすいかといった提案まで求められるように、ただ「モノを売る」だけではない。
さらにその裏では広告をかけたり、スタッフもまたその分動いていたり、多くの労力がかかっているということを実感しましたね。

 


長く使い続けられる商品を目指して

ーーここからは、商品についてのお話をお伺いしたいと思います。
シリーズとして、「瀬戸の家具」「Simple Line」があると思うのですが、それぞれどんな特徴があるのでしょうか?

 塚本さん:まず「瀬戸の家具」は、手作業を最も重視したシリーズです。コストよりも品質を追求したシリーズになっています。
一方で「Simple Line」はコストとデザイン性、強度のバランスを意識したラインナップになっています。

ーーなるほど。技術やデザイン面でこだわりがあれば教えてください。

 塚本さん:脚物家具は耐久性が重要ですが、強度面は同業他社さまからも高く評価していただいています。
製造方法も量産には向かないハタガネ(材料の固定や圧着のために使用する締め具)を使うなど、「手間がかかるから・・・」という妥協はせず、
1つ1つ丁寧な製造を心がけています。

 

                

塚本さん:デザイン的には流行りに左右されない、長く使い続けられるようなものが多いですね。どちらかというと、強度をより重視しています。
あと家具をつくるときは、最初に全体的なデザインを考えるというよりはパーツ単体から全体にイメージを広げていっています。
 肘だったり背板だったり、パーツ単体でも格好よくないといけないと考えているんです。

 

 

サクラ材の魅力

ーーパーツレベルでこだわって家具をつくられているのですね。
塚本木工所の家具といえば、材料としてサクラを使っているのが印象的です。国産材の中でもサクラを使っている理由は何かあるのでしょうか?

塚本さん:単純に良い材料だからです!
初代社長が昔、大量に買ったからというのもありますが。
サクラは木が水を吸う道管が小さいため、テーブルの天板にした時などは埃が溜まりにくく、手触りも良いんです。
赤みのある部分と白っぽい部分があって木の表情が豊かですし、強度もあります。加工も他の木に比べると粘り強く、扱いやすいですね。


あと、やはりサクラは日本人にとっても身近な木材の1つですよね。
お花見でサクラを見る文化もあったり、昔のお家の床板にもサクラやケヤキがよく使われていたり。
自分たちにも馴染み深い木を使った家具を日常に取り入れて、心地良さみたいなものを感じてもらえると嬉しいですね。

ーー欠点はありますか?

塚本さん:赤みのある部分と白っぽい部分のまだら具合が激しく、家具をつくる際の組み合わせに悩むところでしょうか。
テーブルを作るときは材料を並べて見栄えや反りを考えながらベストな形を探ります。
「これが良いかな」「でもこれだと曲がるかな」と迷うことは多いですが、そのおかげで11つ違う表情を持った味わい深い製品になるという点では、良さであるとも言えますね!

 

(写真)サクラを使ったダイニングテーブル「TT-7」。
程よく艶があり、色のコントラストが美しい。

 

 これからの塚本木工所 

ーー今後の展望や目標はありますか? 

塚本さん:やっぱり、自社販売をちゃんとやりたいなと思っています。一応シリーズはありますが、これまで自社製品は売れ筋や統一感を意識せずにつくっていました。
というのも、OEM製造が基軸だったので、商品をつくる=塚本の技術を見せるという考え方だったんです。
展示会に出すために商品をつくって、うちの技術をみてもらって仕事に繋げるスタイルでした。
これからは自分たちでつくったものを、自分たちで販売したいなと思っています。
また、最近の取り組みとして商品へのタグ付けを進めています。
商品情報が読み取れるようになっていて、うちとして販売した後も商品を追えるようにしていきたいと考えています。
メンテナンスの依頼があった時など、いつ製造したものかわかったほうが「ここも変えた方がいいな」と気付けて、役に立つんです。
まだ途中ですが、今後は全商品をこういった仕様にしていくつもりです。

 

 

ーー最後に、tokonoへのメッセージをお願いします。

 塚本さん:国産材を使う事は日本の山を守ることに繋がり、ひいては私たちの生活を守ることにも繋がります。
最近クマが人里に来て事件になるニュースも多いですが、私たちの住む場所と自然の距離を適切に保つことはとても重要です。
そのためには山をきちんと整備しなければなりませんが、資金がなければできません。
山の管理と適切に利用していくサイクルが大切であり、そういった意味でも国産材を使う事は非常に良いことです。
これからtokonoに望むことは、ただモノを売るだけでなく、「国産材の魅力や職人の技術」を伝える存在になってほしいと思っています。
私たちも家具づくりの背景やストーリーを届けることで、新しいお客様との出会いに繋がれば嬉しいですし、
日本の森や地域全体を元気にする仕組みになってほしいと期待しています。